もとこの音楽感想日記

生で聴いた音楽の感想など

能楽小鼓とバイオリンで紡ぐ「葵上」@白鷹禄水苑・宮水ホール

『古典芸能と現代の音楽のコラボレーション』的な企画と聞くと、どうも中途半端なモノを感じて、わざわざ聴きに行く気持ちは湧かないのです。
古典は古典できっちり聴きたい。何百年も生き残ったものにはそれだけの力がある(だろう)から。
でも、喜多直毅と久田舜一郎なら勿論行きます。
久田さんは以前からお名前は知っていて、2010年の齋藤徹さんとのデュオでは既成概念を吹き飛ばされました。

もしかしたらコンサートの構成が途中で少し変更になったのかもしれません。
「葵上」は第二部で、独鼓とヴァイオリン独奏の第一部がありましたから。違うかな。
それぞれのストレートな演奏があって良かったです。
「葵上」は予想以上に細かく練られていて、キマるところがビシッとキマって、さすが!でした。

9月4日
阪神西宮駅から結構歩いて行きました。
1階が販売コーナーで、そこで飲むことも出来ます。
コンサート会場は2階。横に長いスペースで、ステージは一般的な台を2つ重ねて横長に組んでありました。
ステージ上と、ステージ左に装束が広げて掛けてありましたね。能「葵上」では、舞台に畳んだ小袖を置き六条御息所に祟られて病に臥せっている葵上を表すので、それと同じ意味だったと思います。

まず、主催者あいさつと短めの解説があって、本編が始まりました。客席には100人くらいびっしりでした。
◆独鼓 『野宮』より 後シテ
小鼓 久田舜一郎
謡  寺澤幸祐
お二人とも折り畳み式の椅子(床几)に腰かけての演奏でした。
能『野宮』は一度だけ聴いたことがあります。その時は…眠かったです。
今回は小鼓も謡も、心地よい強さがあって、「葵上」への期待が高まりました。
◆ヴァイオリン独奏 喜多直毅
能舞台にあがる時は白足袋以外はNG、譲歩しても白いソックスで、という決まり事がありますが、この日はコンサートなので直毅さん普通に革靴でした。
おそらく、観客の中でそれまでに彼の生演奏を聴いたことがある人は10人以下だったのでは?1曲ごとに解説も入れての演奏でした。
01. Sombre Dimanche 暗い日曜日 (Seress Rezső)
捨てられて自殺した女が、ベッドに目を開けたまま横たわる。ドアを開けて男が入って来た時に、目と目が合うように。という情景解説。苦しい、悲しいエピソードですが、演奏が好きだから決して聴いていて嫌な気分にはなりません。
02. El Choclo(Angel Villoldo)
世界で2番目に有名なタンゴ曲だと思います、とのこと。
靴を踏み鳴らしてアクセント付けてました。
演奏後、会場で飛ぶように売れたというCD"Hypertango 2"ではなく、廃盤状態の1枚目のCD"Hypertango"に収録されている録音も大好きです。
03. 主よ、人の望みの喜びよ (J.S.Bach)
敢えて、音を外してどんどん変調して弾いていく前半、本当におもしろい。チラッと、パルティータ3番のロンド風ガヴォットや、パルティータ2番のシャコンヌが顔を見せたり。
04. 遠くへ行きたい (中村八大)
休憩
(ここでドリンクタイムでした。)

能楽小鼓とバイオリンで紡ぐ「葵上」
久田舜一郎 (能楽小鼓)
喜多直毅 (ヴァイオリン)
寺澤幸祐 (謡)

詞章(謡の言葉)があらかじめ配布されていました。古語ですから、耳で聴くだけより良いかもしれないけど、文字を見るのに気を取られるのは勿体ない。そして、観客がA3両面プリントを裏返す物音は結構大きかったですね。

「葵上」全部やるのではなく、ポイントを3人で作り上げて行きます。
ステージ左から直毅さん、久田さん、寺澤さん。
6年前、久田さんと齋藤徹さんのデュオでは「砧」、昨年の久田、徹、直毅トリオでは「藤戸」を能楽古典曲のなかから演奏しています。久田さんは謡もやり、鼓も打ちでした。
(能楽師は基本的に全役割を修行時代にやっているそうですが、乱能以外では自分の役割以外のことを能舞台でやることはありません。)
今回は謡は寺澤さん。きっちりした謡でした。
この世界に、ヴァイオリンがどう入って行くか。
即興演奏ももちろんありました。楽器のいろいろな部分を擦ったり、楽音以外の音を鳴らしたり。ヴァイオリンのこういう奏法が初めての観客も多かったのでは。痛快でもあり、痛切な心情が表れているところもありました。
そして、タンゴ曲"Oblivion 忘却"(Astor Piazzolla)が奏でられたのです。
「葵上」のストーリーとオブリビオンの歌詞の世界は同じではないけれど、違和感はなかったです。
物怪が六条御息所であると名乗り、光源氏の心が自分から離れていったことを嘆く部分には、ピアソラのタンゴエチュード(たぶん)4番が入っていました。小鼓とタイミングを合わせるためか、どうかわかりませんが、冒頭部分のみいろいろな弾き方で何度か繰り返してましたね。
生霊となった六条御息所を鎮めるため、横川の小聖(よかわのこひじり)が呼ばれ、数珠を揉んで法力でいわば戦います。ここでは、直毅さん弓をビュンと振ってました。もうストレートにカッコ良い。掛けてある装束に当たりはしないか、ちょっと心配でしたが。
ヴァイオリンと小鼓のやり取りがあって、びしっと終着点に着いた時は凄い!と思いました。
最後の方で再度、"Oblivion"でした。

終演時間は記載されていませんでしたが、私の予想より30分ほど長かったので、残念ながら終演後の出演者を囲んでの「ほろ酔い談義」は参加せず。
でも、とても充実した嬉しい気持ちで駅に向かいました。
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