もとこの音楽感想日記

生で聴いた音楽の感想など

The Concert Series 『軋む音』vol.2 絶叫/ほんとうのことは静かに聞こえる(喜多直毅×黒田京子)@公園通りクラシックス

今夜喜多直毅さん、黒田京子さんから受け取った「かたまり」をどう表現していいのか。


単細胞なので虚構と現実の境目がすぐにわからなくなります。
白シャツ黒ズボン、両手首を後ろ手に縄で縛られたうえ更に布で目隠しされたNさん(Naoki Kita)はこれから死刑執行される囚人N(Norio Nagayama)のようでした。


演奏とことば(永山作品の朗読、ヴォイス)、歌(「ふるさと」(作詞作曲喜多直毅、うた・黒田京子、ピアノ・喜多直毅)ほか)に最初から最後までストレートに吸い込まれ翻弄されました。


凄い。


8月27日
喜多直毅(ヴァイオリン、朗読、ヴォイス、ピアノ)
黒田京子(ピアノ、朗読、うた)


スタンドマイクが2本。前方に1本。後方にも1本。
グランドピアノの蓋は大きく開けられ、その前に譜面台とマイク。少し右にはスタンドに立て掛けられたヴァイオリン。さらに右に椅子。椅子の背に黒い布が掛けてある。
後方のマイクは低い位置に据えられている。その前には模型の線路と車両。車両は新幹線?高度経済成長の象徴か。


開演前、蝉時雨(録音)が聞こえる。


黒田さんが普通に始まりの挨拶をすると、いきなり客席の数人がそれぞれ違う文を読み始め、言葉が交錯するなか、喜多さん登場。後ろ手に縛られている!
椅子に腰掛け、黒田さんが目隠しをする。


縄と目隠しは自分ではずし、マイクの前に立って、演奏と朗読開始。
永山則夫(1997年8月1日死刑執行)の生涯がテーマのようだが、特にその説明は無し。


いきなり、やられた。


楽器はナマ音で、ややピアノが大きかった気がしました。


その後、80分くらいの内容。70分くらいだったかもしれません。
告知通り休憩無しノンストップ。MC無し。統一した空気感。
(黒田さんの日記に「一幕物」と書かれていましたね。)


東北言葉での、永山の独白のような語り。何回か区切りがあり、(おそらく)「タイトル未定」のあの曲が演奏されます。この「The Concert Series 『軋む音』vol.1」(4月)と、6月の新澤さんとのデュオで聞いて今夜が3回目のアレです。


音楽だけをやるライヴと、こういった企画もののライヴと、好き嫌いは分かれるところでしょう。
私は好き。
音楽が最高に良いから、そこへプラスアルファのものとして音楽以外の要素が付くとより素晴らしい。(ただし、その世界に引き摺り込まれます。)


「ミミズのうた」という詩もやりました。
黒田さんが主に朗読します。
私は永山則夫連続射殺事件のことは永山という姓に薄っすら記憶があるくらいで、作品を読んだことはないし、今年3月のライヴで「春が来ると」を聞いてからウィキペディアで彼の項目を読んでも共感するものは特にありませんが、この「ミミズのうた」は気になったなぁ。


【私は椅子に座っているのですが、精神的には正座して聞いたつもりです。
飽きたり、ダレたりする事は全くなかった。】


「ふるさと」(喜多直毅作詞作曲)が歌われるのを聞くのは久し振りでした。
鉄道模型の後ろのマイクは、黒田さんが座って歌うために低い位置にしてあったようです。
スイッチを入れ、車両が走ります。
暖かいなぁ。


ピアニストの黒田さんが歌い、ヴァイオリニストの喜多さんがピアノを弾いたこの曲が圧巻でした。
…そう書くと、「え?」と思われるかもしれませんが、私にはそうでした。
今夜はユーモラスなシーンには行かなかったけれど、この曲がちょっと、緊張の連続を救ったかもしれません。


穏やかな、詩のない曲もやりました。
「LONG, LONG AGO」(アメリカ民謡)とその変奏的なところもありましたよね


「ふるさと」の次に、喜多さんから音を途切れさせず黒田さんがピアノを演奏。喜多さんは鉄道模型のなかに立ってヴァイオリンを弾きます。


本編最後は音量小さめでちょっとアラブ音楽寄りのヴァイオリンでした。 前に出て弾く喜多さんにライトが当たり、明暗のコントラストがきつくなり、やがて、暗転して終了でした。
拍手をする心境ではなく、現実感のほとんどないまま座って放心状態でした。
(あとで「大丈夫ですか?」と声掛けられました。)


無いと思ったアンコールがありました。
「Scarborough Fair」でした。
こういう美しいものが必要なタイミングでしたね、やっぱり。


鬼神のように思えた直毅さんですが、演奏が終われば人間に戻ってらっしゃいました。
終演後、「普段のライヴの2倍何かが出て行ったと思います」とおっしゃってました。いえ、2倍どころではなかったですよ。